窓の前方4mのところに湖、
背後の道路は玄関の扉から4m足らずのところ。
山並みを背景に、湖が南に向かって広がる。東から西にかけて見渡せば、湖とそこに映えるアルプスの山々が君臨している…….
敷地面積はたった300㎡しかないけれど、その代わり、眼前のかくも美しい水平線上には、比類ない眺めが広がっている…。
生身の人間の喜怒哀楽に心を配り、居心地のよさを大切にした、ル・コルビュジエ作の「小さな家」。
建築家の個性が現れるのは、美術館や公共施設などの大きな建物よりもワンルームの家…と聞いたことがあります。『小さな家』もワンルームではないですが、彼のこだわりがたくさん詰まっていました。
居心地の良さを追求するRINとしても、共感する部分がたくさんあったので記事にしました!
住宅に必要機能だけを的確に組み合わせて作られた最小限住宅で、ミニマリストにも参考になる部分がたくさんあります!
ル・コルビュジェとは
ル・コルビュジェ
ル・コルビュジェは、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと共に「近代建築の三大巨匠」と言われている、スイスの建築家。
反骨と不屈の精神を持った彼は、冷淡な世評を尻目に、それまでの建築の概念を覆す作品をどんどん発表します。
とにかく建築や世間に向かってやりたいこと、言いたいことがありすぎる。この時挑発的な執筆活動もしています。
ただ、野望、反骨、挑発的…など奇抜さだけを売る建築家ではなく、生身の人間の喜怒哀楽、人々の生活という日常にも細やかな気配りをする人でもありました。
彼の建築物には「えっ!そんな細かいところまで!?」という驚くような気配りが随所に施されています。
最小限住宅『小さな家』
一般には「母の家」 とも言われてるように、ル・コルビュジェが両親の老後の家として建てた建築で、高さ2.5m、奥行き4mの縦に細長い箱のような家。スイスのレマン湖、コルソーという村にあります。
独立したての若い建築家は、手始めに親兄弟や親戚の住宅設計から始めるそうですが、過去も今もそれは変わらず、ル・コルビュジェもこの両親の家と同時期に兄のための住宅設計もしています。
“両親の老後の安らぎの家”となるように、その細部に至るまで予測し洞察することから念入りに設計に取りかかった家。
そして、彼の信条でもある『住宅は住むための機械である』という言葉どおり、スペースの無駄はことごとく切り詰められ、空間は有効活用されて、住宅にとって本当に必要なものだけの機能的かつ快適な住まいが完成されました。
彼は、この両親の家の設計を通して【最小限住宅】という建築家にとって普遍的なテーマを追求したんです。必要最小限を追求した結果、高さ2.5m、わずか約18坪の家に。
自分の中でのプランが決まると、そのプランにあう敷地を探し歩きます。
細部まで細かく設計した図面に合う敷地を探して見つけた時はこう表現しています。
まるで手袋に手を入れるようにぴったりとしていた。
5つのこだわりポイント
①太陽の入射角
この家の高さは2,5mである。これは地表に横たわる細長い箱である。朝日は、その一端にある傾斜天井部分の高窓から差し込む。それから太陽は、日中ずっとこの家の前面を移動する。
こうして、太陽、空間、緑…が獲得された。
この家を湖岸から4mの位置に作るとなった時、そこに住んでいた人びとは言ったそうです。
「湖岸から4mだって?連中は狂っている!リューマチになるし、だいいち湖面はギラつくし」
しかしコルビュジエはそんなことは百も承知。リューマチが起こるのは標高50mあるいは100m前後の丘陵地に住んでいる人のみ、湖の湯気は上方にのぼるから(つまり彼の作る家には起こらない)。
また、太陽の湖面の反射によるギラつきも、太陽の入射角を考えると彼の高さ2,5mの小さな家には入ってこない。入ってくるのは、これもまた標高50-100mの丘の住人たちの家。
コルビュジエからしたら「”みんな”はろくに観察もせず、またよく考えてもみない。」そう、してやったり!って感じじゃなかったのかなぁ~と勝手に想像してます(笑)
ここまでしっかり考えて、冷静に現象を見ているのか〜と尊敬。
②囲い壁の存在理由
この家の北から東にかけて、囲い壁がある。「せっかく見える美しい風景を囲ってしまうのはもったいない…」と思ってしまうのが普通だけど、壁で囲ったことにも、なるほど…!!と思わず感嘆してしまう理由が。
あえて北から東、部分的に南から西にかけて視界を閉ざすのは、四方八方に蔓延する景色を退屈なものにしないためだった。
蔓延するような景色では、もはや”私たち”は風景を”眺める”ことができないのではなかろうか。
“景色は、限定することで眺めることができる”というのが彼の考え。壁を建てることで視界を遮り、つぎに連なる壁面を要所要所取り払い、水平線の広がりを求める。
思い切った判断だなぁ…!と思うと同時に、自分の家のベランダを思い出しました。自分のベランダも1面覆う中に小さな窓のようかところがあり、そこから見える景色が私も大好きなんです。
写真のような枠から見える景色。写真と違うのはそこで感じる匂いや、時間とともに移り変わっていく風景…絶対楽しいだろうなぁ!とワクワクする空間ですね。
上の写真のような、緑あふれる外部の居間となっていてとても居心地がよさそう…!!
③屋上庭園
屋根に上ること。これは過ぎ去った時代のある文明において知られていた喜びである。
屋上庭園はコルビュジエが近代建築の五原則のひとつに数え上げるほどの十八番。
土が盛られ、草花が咲き乱れる草原のような空間になっています。
また、屋上の腰壁によりかかると、眼前に広がるレマン湖の影響で船べりの手すりによりかかっているような感じになるそう(行きたい!)。
季節によって、屋上庭園の様子も変わります。風に乗ってきたわすれな草の青で覆われたりするのはなんともいえない美しい光景なはず…!
もちろん、この屋上庭園は寒さを防ぎ、暑気を断つ断熱材効果も担っています!
④11mのひとつの窓
レマン湖側の立面にある、たったひとつの窓、”水平窓”。リボン・ウィンドウとも呼ばれている、コルビュジエの自慢の窓です。
組積造では、縦長の窓を穿つことはできても、横長の窓は不可能。”窓は縦に長いもの”という組積造の常識を打ち破った、革新的な窓になってます。
この家の主役でもあるこの窓が、奥行き4mの家に十分な居心地のよさをもたらします。壁の面積との絶妙な比例関係により、上品な落ち着いた雰囲気を醸し出してます。
⑤軒庇を支える1本の円柱
外の居間として使われたゲストルーム前のテラスを支える直径6cmのパイプ。
このパイプの垂直線とレマン湖の水平線の生み出す幾何学的形態がコルビュジエのお気に入りでした。
テラスを支える役割もしつつ、視覚的もお気に入りの場所となる。こういう空間の作り方は大切だなぁと改めて思います。
建築的散策路
過去の偉大な建築物を今の建築家が見てきた記録を読むとワクワクします。
私がこの「小さな家」を知ったきっかけは、中村好文さんの著書、『住宅巡礼』で。
“居心地のよい空間が好き”という点で好文さんに勝手に親近感を持っている私ですが(恐れ多い…)、彼が著書で「ここが好き!」みたいに言ってる部分が自分と本当にぴったりなんです(笑)。
この住宅巡礼での書き言葉も読むと本当にワクワクするものばかり。
さて、実際にその内部をぐるぐると歩き回ってみると、進み行くにしたがって次々に現れるシーンが実に多様で、しかも劇的な効果に見ていることに驚かされるのでした。ただ単にまわれるというだけでなく、その背後に一種の物語の流れのようなものが感じられたのです。
やっぱり建築物は実際に行ってみないと分からないものばかりなんだなあと実感します。平面図や写真じゃ分からないようなその空間の流れや装い、動物的な勘の”居心地のよさ”…そういうものは行かないと分からないですよね。私も受験終わったら色々行きたい。
中村好文さんの「住宅巡礼」はほんとに見ていて楽しいし、好奇心をくすぐってくれるので、建築や自然が好きな人はぜひ。”居心地のいい空間”が好きな人は絶対満足する!笑
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ちなみに、このル・コルビュジェの『小さな家』は1冊の本になってます。ハガキ大サイズ、わずか85ページのすっごく可愛らしい本。
ル・コルビュジェ著書なので、彼自身の言葉でこの家を作った想いが綴られています。
彼自身の独特な言葉遣いに心くすぐられまくります。
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